REIKIKAKU

特集企画

mac machine

DETAIL “ありがとう”はものづくりの原動力

富山県富山市、駅から車で10分ほどの場所に代々店を構える布団屋がある。

「寝台の大郷  nemuriya」 昨今安くて気軽に購入できるふとんは世の中にごまんと溢れている。

そんな中、手作りと素材にこだわり続ける「nemuriya」が100年も続く理由を探しに富山県まで足を運んだ。

富山県は人口約100万人、全国的に比べるとやや人口は少なめ。しかしながら立山や黒部ダム、世界遺産の合掌造りなどの名所が数多くあり、日本人のみならず、外国人の観光客に人気の場所である。

今回お世話になる「nemuriya」さんは、

明治41年創業の歴史ある立派なお布団やさん。

現社長は5代目の大郷卓也さんだ。

toyama_1

ねむり屋さんのお布団は全て手作り。

使用する素材も化学繊維は使用せず、天然素材にこだわっている。

しかし、冒頭でも書いた通り、今では1万円以下で買えるお手軽な布団も多い。そんな中大郷さんがどのように「こだわり」をお客様に伝えているのかお話を伺った。

ねむりに関する悩みを抱える人は以外と多いという。いびきや不眠症、夜何度も起きてしまって寝た気がしない、トイレに何度も起きてしまう等。 そんなお客様とまずはこのシートを使って一人一人大郷さんが面談をする。

toyama_2

特に私は夜起きることもなく、ぐっすり寝られているので大丈夫かなあと思いきや、ねむりの診断シートに目を通すとこんな項目が…

 肩が痛い

 やる気がしない

疲れが取れない

(やる気がしないなんて周りには言えないなあ…) と思いつつ、正直にチェックをつけてみた。

大郷さんによると、眠りと健康は密接な関係にあると言う。富山にある笹谷クリニックの院長と協力をすることで、ねむりを医学的な面からもとらえ、より根拠をもって販売を行い、大量生産のふとんにはない付加価値を生むことが出来るのだ。

例えば、かたこりの原因の一つとして、まくらが関係するらしい。

まくらの高さが高すぎたり柔らかすぎたりすると、寝返りをうまくとることができないだけではなく、首が圧迫され血流が悪くなり、肩こりにつながるらしい。

やる気が出ないのも、疲れが取れていないのも、全てが仕事の激務による疲れからくるものではなく、うまく睡眠がとれていないからだという。

実は鬱病や心の病気も睡眠が大きく関係しているのだそうだ。

よくある例として、こんな話を聞かせてくれた。

今日も夜遅くまで働いて疲れて帰宅するAさん。 どっと疲れているのに、いざ寝ようとすると中々寝付けない。

寝なきゃ寝なきゃと思うのに、こんなに疲れてるのに、明日も朝早いのに…… そして朝、疲れが取れていない。結局あんまり眠れなかった。 また仕事に向かう。なんだかイライラして仕事だけじゃなく、人間関係もうまくいかない。 そしてまた今日も寝付けない。 嫌なことを思い出してしまう。

この繰り返しで、心の病気になってしまう人はとても多いそうだ。

生活していれば、嫌なことなんてたくさんある。 睡眠にはそんな嫌な気持ちをリセットする大切な役割もあるらしい。

ぐっすり眠るためには、

睡眠中の正しい寝返り

 正しいねむり姿勢

 日中の適度な運動

これらが何よりも重要になってくる。

そんな話を聞きながら、ふとんの中の綿を見せてもらった。

toyama_3

こちらが天然のコットン。

左が天然のコットンで、右が化学繊維

違いは歴然だった。触り心地ももちろんだけど、柔らかさが全然違うのだ。

じゃあ化学繊維と天然素材、感触は全然違うのはわかったけれど、眠りに実際何が関係するの?

違いの一つとして、それは「汗を吸ってくれるかどうか」

人は睡眠中コップ1杯の汗をかく。 化学繊維のふとんは汗を吸いにくいため蒸れてしまい、汗が冷えて、体温が下がり、目が覚めてしまう。また、湿気の多い場所はダニが多く発生するため、呼吸器などの病気の原因にもなる。

逆に綿はというと、汗をよく吸ってくれるため蒸れにくい。それだけで睡眠の質は大きく変化する。

toyama_4

 

実際にねむり家さんでお勧めする布団に寝かしてもらった。
ただ、100%天然素材のお布団は、正直高額! 今の私にはとてもじゃないけど手が届かない。
せっかくなので、こだわりのつまったお布団に寝かせてもらうことができた。

ものすごくふっかふか!!というものではなく、ほどよくかたく、ほどよくやわらかい。そして体がふとんに沈み込みすぎないから寝返りが打ちやすいのだ。

(写真を見てわかるように、寝るときは手を上に向けてねむるとよいそう。)

このお布団、いったいどのようにして作っているのか気になり、無理を言って制作現場を見せていただくことができた。

ふとんだと時間がかかってしまうので、今回は短時間でできる小ぶりの座布団を見せていただくことに。

 

toyama_5

まずは綿を座布団のおおきさに整える。

 

 

toyama_6

綿の厚さを調節し、だんだん形が見えてきた!

 

 

toyama_7

あっという間にクッション部分が出来上がり。

 

 

toyama_8

カバーに丁寧に入れていきます。

 

 

toyama_9

四隅を整えてあっという間に完成。

かかった時間は5分10分ほど。これが布団になると綿詰めだけで1時間以上はかかるそうだ。

 

「より良い眠りのために、出来る限りのことを」

大郷さんは、この手作りふとんや枕を、ただ「もの」として売ることはしない。

お客様のからだの気になる点をきちんと聞き、ねむりを通してできるかぎりその改善方法のお手伝いができれば、という思いで販売を行う。

寝返りの打ち方の練習や寝る時の姿勢、ふとんの手入れ方法まで、決して安くはない布団だから事、最大限にその布団の力を生かせるよう、お客様1人1人にとことん向き合っていくのだ。

 

toyama_10

 

そして、そのお客様から頂くこのはがきは大郷さんにとってなによりも励みになり、この「ありがとう」が大郷さんの使命感になっているのだ。

このねむり家が100年続く理由は、ものの良さはもちろんだが、大郷さんの行動力や発想力が布団の良さを最大限に表現する大事な要素になっているのだ。

快適な睡眠が快適な日常生活につながることで、ねむり家さんのような「いいもの」に興味を持つ日本人が少しでも増えてくれたらと思う。

富山の大自然の中で、代々受け継がれるこだわりや伝統をまもりつつも、時代に合わせて試行錯誤することが100年続く1番の理由なのかもしれない。大郷さんには、今後も眠りの大切さを世の中の人々に伝えていってほしい。